短編小説~親友~

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結衣「正しいと………思うこと……」 結衣は決意をした。 安定より。現実を選ぶ。 安定といっても、それは限りなく不安定に近い安定。そんないつ崩れるかも分からない安定よりも、今確かにここにある現実を、健と一緒に見ようと決意。決断した。 結衣「我が儘かもしれない。けど、私はあんな健は嫌だ………悟。ごめん………」 悟への謝罪。それを意味する事は結衣本人にすら理解は出来ていないかもしれない。 しかし悟には、これの意味する事を、なんとなく、理解することは出来るのだろう。 その後、結衣は教室へ戻り。いつも通り。いつも通りの雰囲気で授業に取り組んだ。 健は戻ってきた結衣を見て、ずっと不可解な気持ちが残っていた。 そんな奇妙な空間が支配する教室での授業も全部終わり。下校時間になった。 校門前。 健「おっせーなー悟。なにしてんだよ」 結衣「まだ…悟は来ないみたいだね…」 健「部活はないのに、部室に忘れ物したとか。明日でいいのによー」 校門前で悟を待つ二人。 健は戻りの遅い悟に文句を垂れながら待つ。 結衣はそんな健を見て、少し悩み顔を浮かべ、ふと、呟く。 結衣「………あの時も…悟は遅かったよね…」 健「あん?…いつだ?」 結衣「悟は来ないよ。来るけど、健は我慢できなくて先に行っちゃったんだよ」 健「………なに言ってんだ?やっぱりどこか悪いのか?」 結衣「ねぇ、健」 健「な…なんだよ」 結衣「……………悟はもういないよ。………死んじゃったんだよ」 健「……………笑えないぞ。それ」 結衣「悟は交通事故で死んだの…健も覚えてるでしょ?目の前で見てたじゃない…」 健「………そんなわけ…あいつが死ぬわけないだろ……………死ぬわけないだろ!現に今日も学校に来てたじゃないか!!」 結衣「…私には…悟は見えなかったよ……今日悟に誰かが話しかけたの見た?悟に触った人はいた?悟を見た人は…いた…?」 結衣の瞳に涙が溜まる。泣かないために我慢しているのではない。伝えることがあるから、泣く訳にはいかないのだ。
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