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夏の終わりの台風は、きまぐれに進路を変えた。直撃なんてほとんど食らわない瀬戸内の島にだって、影響くらいは出る。今年最後の海は、わざわざ確認するまでもなく風雨に荒れていた。
『無念』
シュンからのメッセージは一言だけだったけれど、その一言に全部集約されているような気がした。既読をつけて数分悩んだ、俺の返信。
『また来年なー』
たぶん、宙に浮いたままになる約束だ。空々しいかなって思わなくもなかったけれど、実際口にするよりはましだろう。
それで終わりになると思っていたやりとりは、意外な方向へ繋がった。
『ヒマなんじゃろ? 勉強教えてや』
特別家が近いというわけでもなかったけれど、狭い島で同級生といったらシュンとあと数人しかいなかったので、小さい頃はよくお互いの家を行き来していた。少人数の複合学級は、クラス全体が兄弟みたいなものだ。ケンカもよくするけれど、すぐに仲直りできる関係。
でも、誰かの家に集まるなんてことは、高校受験を意識する頃からだんだんと減っていった。義務教育が終わると本土の高校に進むヤツもいて、家族のような関係は自然と解消されてしまう。仕方のないことだけど、残される側だった俺は、高校入学直後、ホームシックにも似た感情に悩まされた。
シュンが家にくるのは久しぶりで、予想どおりむず痒かった。お邪魔します、と靴をそろえて脱いだシュンの表情も、ちょっとはにかんだ風に見えた。
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