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主要産業は農業と漁業にあと少し観光業っていう、穏やかな海に囲まれたみかん畑まみれのこの島には、教育施設は小学校しかない。そこを卒業したら、橋で繋がった隣の島へ通って義務教育を全うする。高校はどっちの島にもない。
俺たちは中学校のあった島とは反対の隣島の公立高校を選んだけれど、島のそっち側には橋がない。なので、自転車のまま船で渡って桟橋から島を縦断するっていう不便な通学をしている。本土の高校に進学したって、不便さにはさほど変わりはないし、寮なんてものがあるならば、よっぽどそっちの方が便利だ。高校からバラバラになってしまうのには、ちゃんとした理由があった。
「一緒って言えばさぁ……」
「なに」
「ショウゴ、元気かなぁ」
「あーな……」
曖昧に返しながら、ガードレールにもたれかかるシュンにならった。
ショウゴーー橋本 正吾(ハシモト ショウゴ)は、中学まで一緒だった島の同級生だ。高校が別になったっていうか、本土に引っ越してしまったので、それから顔を見ていない。ショウゴ一家は、島を離れたがらなかった父方のじいちゃんが亡くなったのをきっかけに、母方の実家がある本土の街へ移ったと聞いている。
「今年もみかん、送ってやらんとね」
「ああ」
一家は引っ越してしまったけれど、ショウゴのじいちゃんが大事にしていたみかんの木は、まだ島に残っている。ついでだからと近所の人が世話をしてくれているみたいで、毎年それなりに実をつけていた。売り物には到底なりそうもないガサガサでシミだらけのみかんを、薄青いうちにもいで箱詰めしてショウゴの家に送ってやるのが、橋本家とこの島との残っている唯一の繋がりだった。
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