息子の恋人

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夕方になって、私の部屋で浩人とお茶を飲んでいるとインターフォンが鳴った。 息子からだ。 彼女に下着を分けてやってと言う。 良いわよと返事をして、浩人を見た。 「あなた、彼女に下着を分けてほしいって・・ 今夜も泊まるのかしら?」 「そうだね、この雪だ、帰るのは難しいだろう」 「そうね、新しいの何処に置いたかしら」 そう話していると、息子が彼女を連れて部屋に入って来た。 クローゼットに案内して、何点か下着を見せて選んで貰う。 彼女が選んだのは、どう見ても男の人が好むような物ではなかった。 (もしかしたら、息子とは何も無いのかもしれない) そう思って彼女を見る。 彼女が着ていたのは息子のセーターだった。 「それじゃ大きいでしょ?」 そう言って彼女ガ着られそうなそうな服を探す。 花柄のワンピースが目に留まる。 「これなんてどう?私が若い頃に着たものなんだけど」 鏡の前に案内して胸にあてる。 「良いのですか?こんな可愛いもの、お借りしても」 「ええ、どうぞ」 そう言って彼女を見た。 でもワンピースだけでは寒そうだ。 何か上に着るものを…そう思ってまた探す。 あまり着ない服や貰い物等をおく棚を見る。 (あっ、あれなら・・) 手を伸ばしてピンクのカーディガンを箱から出した。 上の兄が、浩人との結婚が決まった後に買ってくれたものだ。 でも一度も袖を通さず箱に仕舞ったまま棚に置いていた。 兄は私の結婚式を前に交通事故で亡くなってしまった。 そしてその車に同乗し、一緒に亡くなったのは、下の兄の別れた彼女だった。 ただでさえ悲しみにくれた我が家だが、その事で余計に暗く重い空気が張り積めた。 私達の結婚式を延期しようかと浩人が申し出たが、明るいニュースも必要だからと、そのまま結婚した。 でもこのカーディガンは箱から出される事はなかった。 息子の恋人が着れば、兄が喜んでくれる気がした。 クローゼットを出て息子の前に彼女を見せる。 息子は目を見張って彼女を見つめた。 だが、先に声を挙げたのは浩人だった。 「そのワンピース、君が僕との初デートで着てたものじゃないか」 「あら、覚えてたの?」 「ああ、君に良く似合ってて、まるで映画女優みたいで、僕は一目で恋をしたよ」 浩人の言葉に嬉しくなる。 息子はそんな私達の方を横目で見ながら彼女を連れて部屋を出て行った。
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