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其れからも私は浩人に叱られながら息子達を見守る。
ほんの少しだけ、口と手を出しながら。
雪が降り止み今朝は二人仲良く家を出る。
息子は会社に、彼女は学校に。
窓からその姿を見つめる。
「麗華、仕事に出るなら僕の車で送ろう。
君の運転手は今日は忙しいだろうから」
「あら、どうして?」
「忘れたの?
君が香港に行く間休みを取りたいと言っていただろう?
君、彼に良いと言っていたじゃないか。
だけど君が香港行きを延期したから、彼、きっと言えないんじゃないのか?」
そう言えば奥さんの実家に行くような事を聞いた気がする。
息子の彼女の事ですっかり忘れていた。
「あなた、ありがとう。
そうさせて、前田さんにはお休みを取ってもらうわ」
私はインターフォンで、前田さんに遠慮なくお休みをと言って身支度を整える。
浩人の車で会社に向かった。
午後になって珍しく兄から電話が入る。
会社の近くで待ち合わせてお茶を飲んだ。
「どうしたの?珍しい」
「いや、元気かなと思って」
そうは言うが兄こそ元気が無いように思える。
「話って何?」
「俺さ、見合いをする事になったよ」
「見合?兄さんが?
くるみさんは?」
兄には長く一緒に暮らしている女性がいた。
「先月実家に帰ったんだ。
もう俺とは暮らせないって」
「どうして?
あんなに仲が良かったじゃないの」
「分からんよ。
いきなり見合いをするって実家に帰ったんだ。
その後何日待っても帰って来ない。
電話を入れたら別れたいって・・」
「それで?
兄さんはそれで良いの?」
兄は寂しそうに口許だけで笑う。
「仕方ないだろ・・
あいつがそう言うんだ。
止める権利なんか俺には無いよ・・」
兄の答えになぜか腹が立った。
「で、兄さんも見合いをするのね。
でも上手くいかないと思うわ私・・
相手だってバカじゃないのよ、その気が無い人との見合何て断るに決まってる」
兄は顔をしかめる。
「じゃどうすればいい?
俺ももう直に50だぞ、あいつがいないと一人っきりだ」
「だからじゃないの?
くるみさんだって若くは無いのよ。
兄さんが結婚しようって言うの待ってたんじゃないの?」
兄は驚いたような顔で私を見た。
「待ってたのか?
くるみ。
だって何も言わなかった」
「見合いをしたって話だって本当の事かどうか。
兄さんを試したんじゃないのかな?
やめろって言ったなら違ってたんじゃない?」
兄は私をじっと見る。
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