44人が本棚に入れています
本棚に追加
「私ね、浩人に離婚届けを突き付けた事が有るの。
もう二十年も前よ。
でも私の誤解だと直ぐに分かった。
だけど浩人が離婚届けを返してくれなくて、不安で堪らなかった。
あの時素直に謝れたら、あんな思いをしなくて済んだと今だから言える。
兄さん、女はね、大人になると相手の事を考えすぎるの。
素直に甘えたり、我が儘何て言えないの。
愛してたら愛してるぼど臆病になるのよ」
そう一気に言った。
ウエストレスがおかわりを聞きに来た。
私は紅茶を、兄は珈琲を頼んで黙って飲んだ。
「兄さん、うちの息子もね、三十を前にやっと彼女を家に連れて来たわ。
とっても可愛い娘でね、私は凄く気に入ってるの。
でも息子ったらもたもたしててね、私一人がやきもきしながら二人を見てるわ。
浩人は口を出しちゃダメって言うけど、あの子を逃したらうちの息子は幸せになれないと思うの」
「そんなに良い娘さんなのか?」
「うん、他の人にはどうか知らないけと、うちの息子には最高の娘さんよ。
鈍感な息子にも解るように顔が変わるわ」
「それの何処が良いんだ?」
「だって相手の心が見えるでしょ?
兄さんだってくるみさんの心が見えたら、別れたりしなくて良いんじゃない?」
兄はまた黙って珈琲を飲んだ。
「兄さん、言いたい事言ったけど、兄さんの幸せを願ってる」
「ああ、分かってる」
そう言って笑った。
兄と別れて家に帰る。
兄との話を浩人に話した。
「男は甘えん坊だからね。
女性が優しいと忘れるんだ、相手も甘えたいと思っている事を」
私は浩人の顔を見る。
「私は貴方を甘えさせてあげた事何て無いわ・・」
「甘えてるよ。
他の人とは違ってるかも知れないが」
私は浩人を見つめる。
あの見合の時からずっと、私は彼に愛されて来た。
そして私も彼だけを愛して来た。
私たちは恵まれた出合いをして、恵まれた愛を見つけた。
兄もそうだと良い・・
そう思った。
最初のコメントを投稿しよう!