愛する事、愛される事

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「私ね、浩人に離婚届けを突き付けた事が有るの。 もう二十年も前よ。 でも私の誤解だと直ぐに分かった。 だけど浩人が離婚届けを返してくれなくて、不安で堪らなかった。 あの時素直に謝れたら、あんな思いをしなくて済んだと今だから言える。 兄さん、女はね、大人になると相手の事を考えすぎるの。 素直に甘えたり、我が儘何て言えないの。 愛してたら愛してるぼど臆病になるのよ」 そう一気に言った。 ウエストレスがおかわりを聞きに来た。 私は紅茶を、兄は珈琲を頼んで黙って飲んだ。 「兄さん、うちの息子もね、三十を前にやっと彼女を家に連れて来たわ。 とっても可愛い娘でね、私は凄く気に入ってるの。 でも息子ったらもたもたしててね、私一人がやきもきしながら二人を見てるわ。 浩人は口を出しちゃダメって言うけど、あの子を逃したらうちの息子は幸せになれないと思うの」 「そんなに良い娘さんなのか?」 「うん、他の人にはどうか知らないけと、うちの息子には最高の娘さんよ。 鈍感な息子にも解るように顔が変わるわ」 「それの何処が良いんだ?」 「だって相手の心が見えるでしょ? 兄さんだってくるみさんの心が見えたら、別れたりしなくて良いんじゃない?」 兄はまた黙って珈琲を飲んだ。 「兄さん、言いたい事言ったけど、兄さんの幸せを願ってる」 「ああ、分かってる」 そう言って笑った。 兄と別れて家に帰る。 兄との話を浩人に話した。 「男は甘えん坊だからね。 女性が優しいと忘れるんだ、相手も甘えたいと思っている事を」 私は浩人の顔を見る。 「私は貴方を甘えさせてあげた事何て無いわ・・」 「甘えてるよ。 他の人とは違ってるかも知れないが」 私は浩人を見つめる。 あの見合の時からずっと、私は彼に愛されて来た。 そして私も彼だけを愛して来た。 私たちは恵まれた出合いをして、恵まれた愛を見つけた。 兄もそうだと良い・・ そう思った。
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