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12月に入った。
街は美しいイルミネーションで飾られ、人も慌しく行きかう。
この時季になると何となく一人でいるのが寂しくなる。
友人達も彼女とのデートで忙しい。
飲みに誘ってくれるのは僕のような独り者か単身赴任中の先輩だけだ。
僕だって恋人が居た事はある。
でもいつも振られて終わった。
「貴方って、顔はいいのに優しくないのよね」
いつもそう言われる。
僕は優しくしている心算なのに・・
何をどうすれば相手が優しいと感じてくれるんだろう。
そう思って考えてみたが面倒になって辞めた。
考えたところで今は彼女がいる訳でもない。
それに一人が嫌な訳でもなかった。
退社間際になって同期の今村が声を掛けて来た。
「なあ雨宮、今夜暇か?
合コンしょうぜ。
相手は大学病院のナースなんだ。
写メも見たが美人ぞろいだぞ。
相手側も写メを送ってと言って来たんだが送れる顔がいなくて・・」
「嫌だよ。
今夜は少しだけど仕事も残ってるし、僕煩いの苦手なんだ」
顔が・・と言われると嫌な気がした。
まるでそれしか取り柄が無いと言われているように思える。
それにせっかく女性と知り合いになれても、また、優しくないと言われて終わる気がした。
「頼むよ、早く写メも送らないと彼女達の気が変わっちゃうと困るだろ?
それに、実はもう人数に入れちゃってるんだ」
そう言って拝む真似をする。
結局断りきれずに行く事になった。
財布の中を確かめる。
週末なら少しは多めに金を持ち歩くが、普段は1~2万も入っていれば多いほうだ。
カードも有るが、使い過ぎると後で引き落とされた時に小遣いの遣り繰りに苦労する。
僕は酒が好きで一人でもよく飲みに行く。
マスターが一人で営むような店が好きで行きつけも何軒かはあった。
(合コンならもう少し位は必要かな?
コンビニでおろすか・・)
コンビニのA T M の前で気付いて家に電話を入れた。
「はい、雨宮でございます」
僕の家を取り仕切る山本吾一の声だ。
「あっ、僕、ごめん、今夜は遅くなりそうです。
夕食も済ませる心算だから加納さんにそう伝えて。
連絡が遅くなった事、謝っておいてください」
「はい、分りました。
加納にも伝えます。
祐人さん、今夜は冷えます。
門扉は閂だけ掛けておきますので」
そう言うと飲みすぎないでと言ってくれた。
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