出会い

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奥を取り仕切っている加納嘉子は僕が産まれる前から僕の家にいる。 山本さんとは同じ頃に僕の祖父に仕えた。 尤も、山本さんは何代にも亘り僕の家に仕えている家系で、その父も、祖父も、ずっと家を仕切っている。 父は彼の事を『番頭』のような者と呼び母は『執事』のような方と呼んだ。 僕には優しい叔父さんみたいな人なのだが・・ 僕の両親は僕が10歳の頃に離婚している。 でも僕の為にと言って同じ家に住んでいた。 曽祖父の代に建てた大きな家は別れた夫婦が顔を合わせる事も無い位広い。 僕でさえ父や母に家で会うのは月に1~2度位な物だ。 特別に話でも無ければお互いの部屋を行き来する事も無い。 それでもそれぞれに会社を経営している二人は、ごく偶に業界のパーティなどで一緒になると仲良く二人で帰って来てはどちらかの部屋で酒を飲むらしい。 まあ、僕ももう直30歳だ。 親がいちいち干渉する年齢でも無いし、此方も干渉などしない。 でも、二人が仲良くするのを見るのは悪い気がしなかった。 僕は一度この家を出て一人暮らしをした事がある。 学生の時だ。 通っていた大学が家からでは遠いのと、友人達に『金持ち』だと思われるのが嫌だったからだ。 学生はおおむね金など持っていない。 僕も同じだ。 小遣いなどはアルバイトで賄っているのだが金持ちの子として扱われると嫌でも奢らされる。 僕としては学費以外のものは自分でしたかった。 一人暮らしはそうした事を避けるのには十分に機能してくれた。 何年か過ぎ今の会社に入ってから、掃除と洗濯が面倒になって家に戻った。 いづれはどちらかの会社を継ぐ事になるのだろうが、今はまだ自由に今の会社で仕事をしていたかった。 因みに、僕はこう見えて成績は優秀だ。 自分で言うのも気は引けるが、今の会社には自分の力で採用されたと信じている。 両親にも誰にも話さすに試験を受け入社した。 同期入社の今村でさえ僕の素性は知らない。 そう言えば、彼が僕の家に来たのはまだ此処に戻る前だった。 たぶん、会社の誰もが僕が雨宮グループの跡取りだとは知らないはずだ。 ぼくも誰にも言う気なんてないし、煩く詮索するような友人も居なかった。
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