出会い

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公園は結構広い。 時々若いカップルと擦れ違うくらいで人気もない。 細い小道を抜けると急に開ける。 子供用の遊具などが設置された場所に出た。 (道を間違えたか) そう思って引き返そうとした時だ。 キイキイとブランコが揺れる音が聞こえた。 ボワッとした水銀灯の灯りの下、若い女性が一人ブランコに揺られていた。 靴を脱いで裸足だ。 コートもバックも土の上に置いて黙って揺られている。 何となく不思議なものを見たような気になる。 (まさか、真冬に幽霊じゃないよな・・) そう思ってじっと見た。 女性が僕に気付いた。 「何?大人なのにブランコなんてって見てるの?」 そう聞いて僕をじっと見る。 「いやそうじゃなくて・・ 幽霊・・かな・・と」 「私が幽霊?」 彼女は僕を見てコロコロと笑った。 「残念、生きた人間よ」 そう言いながらまた僕を見ている。 「いや、そう言う意味じゃなくて・・」 僕は言葉に詰まる。 不思議だなんて言ったら変しなやつだと思われそうだ。 「もう遅いから気を付けて。 この頃はこの辺りも物騒らしいから」 僕は彼女にそう言って元来た道を引き返す。 「物騒だと心配してくれるなら家まで送ってよ」 彼女が僕の背中にそう言った。 僕は驚いて振り返る。 「送ってって、君、僕を知らないだろう? 怖くないの? 変なやつかも知れないのに」 「変なやつは人の心配なんてしないわ」 彼女はそう言って僕に微笑む。 「君、酔ってる?」 「残念、お酒は飲めないの」 彼女はブランコから降りると土の上に置いたコートとバッグを持った。 手招きで僕を呼ぶ。 僕が傍に行くと、僕の肩に手を置いて靴を履く。 肩に置かれた手は氷のように冷たかった。 「貴方って傍で見ると背が高いのね」 そう言って僕を見上げる。 近くで見る彼女は15~6歳のような幼い顔をしていた。 「君、いくつ?」 「いくつだと思う?」 「16歳くらい・・」 「うふふ、また残念。 19歳よ」 「それでも未成年だ。 知らない男に送らせたりしちゃダメだ」 僕は少し説教くさく言った。 「大丈夫、もう知らない人じゃないわ。 5分も一緒にいたもの。 立派な知り合いじゃない」 彼女は笑いながら僕の顔を覗いた。 僕は半分呆れながら彼女を見た。 美人ではないが可愛い顔をしている。
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