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「分かった。
本当に危ないやつよりは僕の方がマシだ。
送ってあげる」
少し酒に酔ったのかもしれない。
普段の自分ならこんな軽率な行動はしない。
だが今夜は何かが違った。
僕は彼女に手を差し出す。
彼女はその手には掴まらず僕のコートを握った。
急に胸がドキッとする。
彼女のしたそのしぐさが可愛く思えて胸が高鳴る。
黙って彼女を見つめた。
「何?コートが皺になるのが嫌なの?」
彼女は僕のコートから手を離す。
「いや、いいよ皺位・・
何だか君が可愛く思えたから・・」
僕は素直にそう言う。
彼女は笑いながらまた僕のコートを握って歩き出した。
「私、沙羅、貴方は?」
「僕?僕は雨宮・・」
「名字はいい、名前教えて」
「あっ、うん。祐人」
「ユウト?かっこいい」
彼女にそう言われ僕は少し照れた。
「君の名前もかっこいいよ。
外人みたいだ」
「私、外人よ。
父は中国人だし母も韓国系のアメリカ人だもの・・・」
「そうなの?」
彼女は僕を見て笑う。
「嘘よ。貴方って何でも直ぐ信じるのね。
さっき自分の事を変なやつかもって言ったけど、私の事は変だとは思わなかったの?
それとも女は安全だと思ってる?
女に変なやつはいないって?」
彼女にそう言われ何となく頷く。
「だって女性だろう?
守ってあげなきゃ、弱いんだから。
暴力なんて振るわれたら男には勝てないだろう?」
僕がそう言うとバッグから可愛い人形を出した。
「これ、防犯ブザー。
頭を押したら2キロ位先まで音が聞こえるわ」
そう言って押す真似をする。
「おい、止めてくれよ」
僕が慌てると笑いながらバッグに仕舞った。
「祐人って面白い」
もう呼び捨てにされてる。
僕の方がはるかに年上なのに・・
「沙羅ちゃん、何処まで送ったら良いのかな?
まさかアメリカって言わないよね」
僕は冗談の心算でそう聞く。
「えっ?送ってくれるの?
アメリカでも・・」
「まさか・・今からなんて飛行機も取れないよ」
「じゃ、いつなら良いの?」
彼女が僕を覗いた。
「えっ?本当にアメリカまで送れって言ってる?」
「違う、香港」
「はあ?」
僕は本当に呆れて彼女を見た。
「嫌なら・・いい」
彼女は少し寂しそうに言う。
「いいわ、忘れて。
どうせ今行ったってもう誰も居ないし・・」
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