別れ話は突然に

6/15
前へ
/299ページ
次へ
「別にいいわよ。会社には仕事しに来てるんだから」 副社長の息子だから何だっての? 「あたしは、他の人達みたいにきゃあきゃあ言わないも───」 「それはありがたいね」 突然背後から声を掛けられ、驚きのあまり背筋が伸びる 振り返ってみると、トレーを持った例の男があたしの斜め後ろに立っていた 「隣、いい?」 「は?」 思わず漏れた棘のある単語 そして返事もしていないのに、奴は腰を下ろすとトレーに載ったかつ丼のどんぶりを手に勢いよく掻き込んでいく 「意外…。柳生くんも、そんな庶民的なの食べるんだね」 愛莉が目を見開いて奴を見る 「俺も普通の人間だし。コンビニとか牛丼屋とか、普通に行くし食うよ」 普通の人間って……… 「油木(ゆき)さん」 「何でしょう?」 奴に名前を呼ばれたのでバカ丁寧な言葉で返事をし、満面の笑みで隣を見ると、奴もこれ以上ないほどの爽やかな笑顔であたしを見ていた
/299ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3230人が本棚に入れています
本棚に追加