第1章

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   やって来た陽介は絶句する。    クマも一緒にいる。    佳苗と明生の笑い声が聞こえる。 陽介「やっぱり、ここに帰っていたのか(少し嬉しそう)……」    家に入る陽介とクマ。 ○陽介の実家・居間    佳苗と明生は、陽介が子供の頃の話をして盛り上がっている。 明生「突然、教師になると言いだしおって、理由を聞いたら『ちゃんとした子 供になってほしい』からやって。ちゃんとした大人になってほしいからじゃ なくて、ちゃんとした子供になってほしいんやて。そんな教師いるか?」 佳苗「あの子、勉強できても、子供らしくない子には通知表でAあげないんよ。 テレビゲームの話とか、塾の成績の話ばっかりしてる子には。それでPTA から怒られて。ほんまバカやで」 陽介「誰がバカやねん。後ろにいるの気付いていて言ってるやろ」 大笑いする佳苗と明生。 佳苗「あんた、いつから来とったの?」 明生「おお、陽介、いつから来てたんや」 陽介「わざらとらしいわ」 佳苗「(クマを見て)そちらさんは?」 陽介「物知りなクマさんで、俺はあまりこのクマのことは知らんけど、悪い奴 ではないと思うけど……待ってよ、それもよくわからないけど、とにかく今、 一緒にいるだけさ」    部屋を見渡す陽介。 佳苗「なんね?」 陽介「うっ、うん。親父さ、あの子と一緒じゃないの?」 明生「あの子って誰や?三丁目のホステスの子か?」 佳苗「誰や、それ」    突然、明生の上から大量の水が降ってくる。びしょ濡れになる明生。 明生「なにすんねん」 陽介「そうじゃなくて、あの子だよ。エリー」 佳苗「ああ、エリーちゃんなら今朝、自分の国に帰るって出て行ったわよ。ほ んま、いい子やね」 明生「そうやな。あんな気持ちのいい子、最近おらんもんな」    寂しそうな表情になる陽介。 クマ「なるほど。彼女に気付いてもらいたくて、顔を変えなかったってわけか い」 明生「なんや、お前まさか(冷やかそうとする)」 佳苗「(明生を制して)今から行けば、空港に間に合うかもね」 陽介、家を飛び出る。    クマも宙を浮いて、ついていく。    佳苗、急に正座して、明生の目をじっと見る。 明生「どないしたんや、急にあらたまって」 佳苗「……あんた、どこに隠したの。あの写真」 明生「なんや、あの写真て」 佳苗「とぼけんとんて、あの写真や。私が、あの…」
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