第1章

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   ダッシュボードからCDを捜す陽介。    すると、おもむろにゴムの紐を手持ち鞄から出して、陽介の首に巻き、    力いっぱい絞める佳苗。 陽介「(驚いて)な、なにすんねん…」 佳苗「あんたにはいっぺん死んでもらうわ。急に死に顔が見たくなったんよ」 陽介「アホか、いっぺん死んだら、もう生きかえられんねん」 佳苗「そうや。よーく、知ってるわ」    さらに力を込めて絞める佳苗。 ○人気のない道    青信号になっても、そのまま停車している陽介の自動車。    後続車が来て、クラクションを鳴らす。    それでも発進しない、陽介の自動車。    不可解そうに後続車の運転手が、車から降りて陽介の自動車に近づく。 ○車内    ゴム紐で首を絞められ、苦しそうな陽介。    バックミラーで、後続車の運転手が近づいてくることに気付く。    それに佳苗も気付く。    ゴム紐を緩めて、そそくさと鞄に隠す。    トントン、と運転席の窓をノックする後続車の運転手。 陽介「(顔を真っ赤にして佳苗に)なにしてくれんねん!」 後続車の運転手「なにしてくれんねんじゃねーよ、早く車出せよ!」 陽介「(咳き込みながら)すみません、今、出します」    自分の車に戻っていく後続車の運転手。    バックミラーで母の様子を注意深く確認しながら、自動車を発進させ、    信号を過ぎて、脇に停車させる陽介。    後部座席で、ふてぶてしく座っている佳苗。 佳苗「で、どうすんの?」 陽介「なにがっ?(キレ気味)」 佳苗「なにがって、私はあんたを、実の息子を本気で殺そうとしたんよ」 陽介「本気でって…、なんでこんなことしたん? 俺がなにかしたんか?」 佳苗「あんたは、親孝行もせんけど、親不孝者でもないし、別に恨みもないわ」 陽介「(複雑な気持ち)…。じゃ、なんで?」 佳苗「電話があったんよ。不思議なくらい人生が変わってしまった一本の電話 が(うつろに空を見上げる)…」 ○回想・陽介の実家    どこにでもありそうな、ごく普通な一軒家。    昼ドラを食い入るように見ている佳苗。    すると、固定電話が鳴る。    無視して、テレビから視線を外さない佳苗。    鳴り続ける電話。    仕方なく、立ち上がり、受話器を取って、すぐに切る佳苗。 佳苗「ほんま、うるさいわ」    すると、今度は佳苗の携帯電話が鳴る。    番号は非通知。
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