2人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
ダッシュボードからCDを捜す陽介。
すると、おもむろにゴムの紐を手持ち鞄から出して、陽介の首に巻き、
力いっぱい絞める佳苗。
陽介「(驚いて)な、なにすんねん…」
佳苗「あんたにはいっぺん死んでもらうわ。急に死に顔が見たくなったんよ」
陽介「アホか、いっぺん死んだら、もう生きかえられんねん」
佳苗「そうや。よーく、知ってるわ」
さらに力を込めて絞める佳苗。
○人気のない道
青信号になっても、そのまま停車している陽介の自動車。
後続車が来て、クラクションを鳴らす。
それでも発進しない、陽介の自動車。
不可解そうに後続車の運転手が、車から降りて陽介の自動車に近づく。
○車内
ゴム紐で首を絞められ、苦しそうな陽介。
バックミラーで、後続車の運転手が近づいてくることに気付く。
それに佳苗も気付く。
ゴム紐を緩めて、そそくさと鞄に隠す。
トントン、と運転席の窓をノックする後続車の運転手。
陽介「(顔を真っ赤にして佳苗に)なにしてくれんねん!」
後続車の運転手「なにしてくれんねんじゃねーよ、早く車出せよ!」
陽介「(咳き込みながら)すみません、今、出します」
自分の車に戻っていく後続車の運転手。
バックミラーで母の様子を注意深く確認しながら、自動車を発進させ、
信号を過ぎて、脇に停車させる陽介。
後部座席で、ふてぶてしく座っている佳苗。
佳苗「で、どうすんの?」
陽介「なにがっ?(キレ気味)」
佳苗「なにがって、私はあんたを、実の息子を本気で殺そうとしたんよ」
陽介「本気でって…、なんでこんなことしたん? 俺がなにかしたんか?」
佳苗「あんたは、親孝行もせんけど、親不孝者でもないし、別に恨みもないわ」
陽介「(複雑な気持ち)…。じゃ、なんで?」
佳苗「電話があったんよ。不思議なくらい人生が変わってしまった一本の電話
が(うつろに空を見上げる)…」
○回想・陽介の実家
どこにでもありそうな、ごく普通な一軒家。
昼ドラを食い入るように見ている佳苗。
すると、固定電話が鳴る。
無視して、テレビから視線を外さない佳苗。
鳴り続ける電話。
仕方なく、立ち上がり、受話器を取って、すぐに切る佳苗。
佳苗「ほんま、うるさいわ」
すると、今度は佳苗の携帯電話が鳴る。
番号は非通知。
最初のコメントを投稿しよう!