第1章

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   いぶかしげな佳苗。電話を切る。    そして、すぐにメールが届く。 メール『次の電話が最後のチャンスです。あなたはめでたく「理想的なごく普通 の主婦」として選ばれました。そこで取引をしたいのです。それに応じてい ただければ、あなたは、もう一度会いたい人に会える権利を、手に入れるこ とができるのです』 仏壇にある亡き夫、明生の遺影を、寂しげに見る佳苗。    再び携帯電話が鳴る。    電話に出る佳苗。 佳苗「なんで私が理想的にダメなごく普通の主婦やねん。私より、一軒隣の吉 田さんの方が、真昼間からパチンコしたり、ゴロゴロしてるで」 電話の声「(喋りながら、老人の男性の声や、少女の声など、声が変わり、どん な人物なのか、声からはまったく掴めない)選考理由は教えられませんが、 とにかくあなたは、選ばれたのです。もう一度会いたい人に会える権利を手 にすることができる幸運な人として」 佳苗「……」 声「誰でもです。歴史上の人物であれ、未来の人物であれ、あなたが会いたい 人に会うことができるのです」 明生の遺影を見つめる佳苗。 声「そうです。会うことができるのです」 佳苗「そんなアホな(力強く否定する)」 声「そうでしょうね。簡単に信じられる話ではありません。そのため、今から 30秒間のお試しタイムをご提供します。大切にしてくださいね」 佳苗「えっ?」 明生の声「座るで」 突然現れた明生(52)が座卓の前に座る。 明生「お茶、入れてくれるか」 佳苗「あっ…はい(慌ててお茶を入れる)。どないしたん? どっからきたん?」 明生「(天井を見上げ)お前の入れるお茶を飲めるって言われてな、来たんよ」 お茶を飲む寸前で、明生がふーっと消える。 佳苗「あっ……」    湯呑のお茶を見て、涙ぐむ佳苗。 ○車内    涙を流す佳苗。 陽介「そんなアホな…」 佳苗「会いたかったんよ。もう一度だけ、お父ちゃんに。お茶を飲んでほしか ったんよ。どうしてもな。お父ちゃん、あんなにお酒が好きな人やったやろ、 それが、お酒よりも、私が入れたお茶を飲みに来てくれたんよ。うれしいや ろ。ただただ。うれしいやろ。それに、お父ちゃんにどうしても聞きたいこ とがあったんよ」 陽介「(もらい泣きしそうになりながら)聞きたいこと?」 佳苗「それは夫婦の問題や」 陽介「……で、それと、(首を押えて)これはなんの関係があんねん」
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