第三章真田睦月巡査 真相への入り口編

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 それでも、水澤や真田や野村や竹森など、榊が自殺前に刺すというの行動に出た事実から、堂場刑事部長に関与の疑いを持つ捜査員もいたが、堂場のとある告発によって、榊のその行動も堂場に対する口止めと判断された。    告発は次の内容である。一九八四年に留萌署で起こった銃器密輸事件取調べ中に容疑者の簗田健壱という男が証拠品の拳銃を奪い自殺した事件が、実は取調べ中に当時留萌署の刑事だった榊が簗田の態度に激高して簗田を射殺したというものだった。共に取り調べに当たっていた堂場はそれを一部始終見ていたが、榊に脅されて言えずに、結局当時の上司の判断で容疑者の自殺とされた。と言うものだった。  一ヵ月後、堂場は刑事部長から、今回の事件のスピード解決を含め噂されていた旭川方面本部長就任と、警視長昇級という、全国でも類を見ないノンキャリアでは異例の抜擢を受けた。  ただ、事件解決後も、榊に犯人に仕立てられて榊を恨んでもおかしくない木村正一自身は、榊の冤罪を信じていた。木村は自分なりに地道に行動を起こす。  そして、真田睦月も非番になるたび、留萌市を訪れている。  もう一人、真夏の盛りに長袖を着込み、無精ひげが顔下半分を覆うサングラスの男も留萌市で行動する。  その男は、留萌駅前の喫茶店に入り名刺を差し出す。名刺には、将田探偵事務所 所長 将田尚人と書かれている。  水面下で、未だ真相は底の方黒緑の塊の澱みにまぎれつつも、ゆっくりとその三人によって掻き出される時を待っている。
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