第四章 一九八〇年、留萌署刑事 榊栄一郎巡査 堂場剛弘巡査

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 留萌署は北海道の地方都市の警察署だが、一九八〇年当時は四万人弱の人口を抱えている。  ただ、地方都市の警察署と言っても、留萌市は港を抱えており、留萌署のこの所の重点捜査対象は、市内の暴力団事務所が手引きしている、ソビエト連邦や北朝鮮など海外からの銃器や麻薬の密輸であった。    この時代、留萌署は刑事課として課はあるが、大都市の警察署と違い捜査一課二課三課などと分かれておらず、留萌署の刑事は殺人から薬物から、強盗、強姦、詐欺、空き巣まで担当した刑事がなんでも捜査した。  多村自身も、深夜に喫茶店で起きたエイリアンだかを撃ち落すテーブル型ゲーム台窃盗事件と、市内で起こった婦女暴行事件と、海岸を散歩していた不可解な親子連れ失踪事件(後に北朝鮮拉致被害者と判明)と、川原に何者かが大量に白黒テレビを不法投棄した事件を捜査している。  多村は、留萌署を出ると、行きつけの定食屋へ向かう。  角を曲がり定食屋が見えた時、ちょうど五十代くらいの中年男が叫びながら定食屋から飛び出してきた。  すぐ後に、背はあまり大きく無いが筋肉質の若者が、その男をおって猛スピードで飛び出してくる。  その後を追って長身だがひょろっとした若者がおどおどしながら出てくる。  中年男は、多村を見るや否や、助けてくれと叫び、足をもつれさせ多村の足元で転んでしまった。  そこに、最初に出てきた若者が飛びかかり、中年男をうつ伏せから仰向けにすると馬乗りになり顔面を殴打し、さらには男の髪を掴んで地面に後頭部を叩きつけようとする。 「ひぃーっすいませんすいません」中年男は鼻血を出しつつ泣き叫ぶ。 「てめーコラっ!!刑事の前で食い逃げするとは、いい度胸じゃねえか!!」 「榊! やめろってやり過ぎだよ」 「ウッセ!!堂場!!てめーは、おどおどしてとっさに動けてなかったじゃねえか!!そんなんじゃ刑事勤まらんぞ」 「コラ、ガキ!!やりすぎだ!」多村が怒鳴る。  すると、榊と呼ばれていた血気盛んな若者が立ち上がり多村の胸ぐらに掴みかかる。 「なんだ、おっさん! 公務執行妨害でしょっ引くぞ」  多村は黙って警察手帳を取り出し見せる。 「留萌署の多村だ」
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