第四章 一九八〇年、留萌署刑事 榊栄一郎巡査 堂場剛弘巡査

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 多村が取調室に入ると、容疑者の顔はパンパンに腫れ血に染まったティッシュが机の上に積まれていた。多村は堂場を残し榊だけを外に連れ出す。 「多村さん、あいつ俺に唾かけやがったんですよ。俺らの目の前で逃げたくせに、やってないとか言い出すし……」  多村は、無言で榊に拳骨を食らわせる。 「お前、容疑者にも人権はあるんだぞ。やりすぎだ」  「なんでですか? 犯罪犯すようなクズになんでこっちが優しくせんと行けないんですか?」 「お前はアメとムチじゃなくてムチとムチだけで強引に行こうとするから、相手も態度を硬化させるんだよ。ほれ、堂場見てみ。頭下げたりしとるだろ? ほれ見い、あの容疑者も頭下げだしたぞ」 「ふっ堂場なんて同期連中の中でも射撃も格闘技も逮捕術もビリケツ。法律とか詳しい頭良いだけのヒョロ野郎ですよ」 「お前らは、二人で一人前だな。お互いの短所埋めあっていいコンビになるぞ」 「やめてください。俺は堂場には負けん。絶対俺が先に上に行きます」  榊がむっとして言う。  「まあ、近いうちでかいヤマがあるからな。二人でがんばれや。まあ今日は俺のおごりで三人で歓迎会だな。留萌は旨い酒とツマミの宝庫だぞ」多村が言う。  その日から、三年榊と堂場は、多村の元で刑事のイロハをみっちりと鍛えられる。  最初は多村にちょくちょく反発した榊であったが、現場を共にするうちに多村の刑事としての実力や考え方に心酔していった。
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