第四章 一九八〇年、留萌署刑事 榊栄一郎巡査 堂場剛弘巡査

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 その瞬間、榊の拳が簗田の頬を打ち抜く。 「なんだ、てめえその口の利き方は? 車の中じゃねえよ。最後に積んだベンツ手で押してたろ? ガソリン空か?」ニヤリとしながら榊が問いただす。 「しっ……知らねえよ」明らかに動揺した様子で簗田が言う。 「どうした? 動揺したか? 先に吐いちまえよ。このザコがっ。てめえ、署に行ったら覚悟しとけよ」  榊が挑発する。 「なんだとてめえ? サツが何ぼのモンじゃ!!織田組北政会舐めとったら後悔するぞ。覚えとけ」  簗田が悪態をつく。 「うるせぇ馬鹿が。留光興業なんざ下の下の下の四次じゃねえか。やってみろよ」  短気な榊もキレ始める。 「おい、いいから車調べるぞ!」  見かねた堂場が割り込む。  榊と堂場は二人をカーキャリア後方に連れて行く。  応援の捜査員が駆けつけてくる。 「下段の最後尾のベンツの下潜って燃料タンク叩いてみて下さい!」  堂場が、大声で応援の捜査員に指示する。一人がカーキャリア荷台に登り、ベンツの下へ潜る。 「車を手押しで入れてたので、タンク空のようなんですが、どうですか?」  堂場が聞く。    「ぎっしり詰まった音がします。でも音が液体じゃなくて、強く叩くと金属同士が当たる音がします」 「溶接したような痕跡は無いか?」  堂場が聞く。  「ありますね。真新しい跡です」潜り込んだ捜査員が言う。  捜査員の一人が捜査車両に戻り、工具を持ってきてタンクを一部切断し穴を開ける。  懐中電灯で照らす。 「ありました。拳銃です」 「すいません!!」中古車ディーラーの男が観念してその場で泣き崩れる。 「現行犯逮捕だ」  榊が簗田に手錠を掛ける。  簗田と中古車ディーラーの男は留萌署に移送される。  
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