第四章 一九八〇年、留萌署刑事 榊栄一郎巡査 堂場剛弘巡査

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 榊は、更に力を入れて銃を簗田の口に押し込む 「何笑ってんだコノヤ――」  パンッ!!乾いた音が取調室に響く。  と、同時に簗田の後頭部から血しぶきと肉片が噴出し床に飛び散る。 「榊、おっお前……」  堂場は信じられない光景に絶句して言葉に詰まる。 「ちっ違う、トリガーは引いてない。指も掛けてない。暴発した」  一瞬にして、榊の顔から血の気が引き顔面蒼白になっていく。 「榊、お前なんて事……」  その時、銃声を聞きつけて杉山や他の刑事が取調室に駆け込んでくる。 「何じゃこりゃ。おっお前ら何したんだ?」  杉山が鬼のような形相で叫ぶ。  榊は銃を掴んだまま血まみれで震えている。 「さっ榊が咄嗟に飛びかかりましたが、止められませんでした」  堂場が、杉山に言う。 「や、簗田がいきなり証拠品の銃を奪い取って、口の中に入れ自殺しようとして、榊が止めに入りましたが間に合いませんでした」 「何だと? お前ら二人居て、何で銃奪われた? 何で止められんかった? 何をしとんのじゃ!!」 「ちっ違いま」榊が言いかけるが、堂場が割り込む。 「すいません。我々二人のミスです。申し訳ありません」  その後、鑑識が調べた結果拳銃から簗田の指紋は検出されず、簗田自殺の線は無くなったが、それは表に出ることは無く闇に葬られ、留萌署署長と広川の判断で自殺と言う発表がなされた。警察組織による隠蔽である。    決して許されない事であるが、まだ若い榊の事を考えての広川の温情と言える判断であったが、元来正直者である榊にとって、その情けが逆に心に闇を残し、長きに渡り榊を苦しめる事になる。    この事件の後すぐに堂場は釧路署に、榊は道北の僻地の交番勤務に移動となった。
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