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二〇〇〇年二月十日深夜、非常口を示す緑の光が一部電灯の消えた廊下の壁を緑色に照らす。
静まり返る札東警察署の捜査二課のフロアで俺は捜査中の詐欺事件の調書を書き終えると、椅子にもたれ掛かり伸びの動作をして大きく息を吐く。(コーヒーでも飲むか……) すると、向かいで熱心に作業を手伝ってくれている部下の野村と目が合った。
俺はジェスチャーで飲み物を飲む動作をする。
野村は右手をひらひらと顔前で揺らし、僕はいいです。とジェスチャーで返す。
俺は立ち上がりコーヒーを買う為に休憩室の自動販売機へ向かう。
ちらりと時計を見る。すでに零時を越えていた。
最近は午前様続きで、九歳の娘とはもう三日間しゃべってない。
内ポケットをまさぐり小銭入れを探す時に思う。
(野村は新婚だったな、あいつも頑張っているしコーヒーでも奢ってやるか……)
スーツのポケットから手探りで小銭入れを取り出そうとした時、ピリリリッ!!ピリリッ!!と携帯電話の呼び出し音が鳴った。
二つ折りの携帯電話を開くと宮田と表示されている。
宮田……同期の宮田。交番勤務の巡査時代は毎週会っては語ったものだが、最近はお互い忙しく月に一、二度飲みに行くくらいだ。
「もしもし?」
「ちょっといいか?」宮田は、ちょっと疲れたような様子の声だ。
「いいぜ。 ちょうど終わって一服しようと思っていた所だ」宮田の気分を上げる様に俺は少し明るめの調子で話す。
「すまんな、まだ仕事あるんだろ?」
「いや、今日の所は終わったよ。それより本部の四課の方が、うちなんかよりもっと大変だろう?」
「色々とな……でも、二課も忙しいだろう?」
「最近成績が悪くてさ……まあなんとかやってるよ。それより、なんか元気ないじゃないか?」
「……俺はもう限界かもしれない」
「おいおい、いきなり何だよ!!大丈夫かよ? 何かあったのか?」
「なあ、真田……正義って何なんだろうか?」
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