第二章六代目織田組二代目新光会若頭補佐鷹組組長羽場鷹春

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 羽場は、周囲を伺う。この時間は特に監視の者はいない様だ。左足を庇いながら出口らしきほうへ向かう。  羽場はタクシーを拾う。「どちらまで?」「西宮駅前に向かってもらえますか?」「はい」  とりあえず、向かう所は一つ。ただそこまでは、撹乱する為にタクシーを細かく乗り継ぎ向かう。  朝までには、そこに着けばなんとかなる。  翌朝、羽場は西成区萩之茶屋に降り立つ。周囲には違法駐輪自転車やブルーシートの建物が目立つ。薄汚い布の上に拾ってきたような雑誌や雑貨を並べ路上で商売をする者もいる。  酔っ払って、そのまま路上で寝る男を避けつつ雑多なドヤ街を進み、三角形の形をした公園で他の路上生活者や日雇い労働者達とは少し雰囲気の違う、今は無き在阪球団の野球帽をかぶる上半身裸で立派な和彫りを背負う老人に話しかける。羽場はさりげなく聞きたい情報を尋ねると、どこの組織か聞かれ、羽場は近江連合の者だと答える。  近江連合はこの西成区を仕切る織田組傘下で神戸派の組だ。  老人に「犬は放れていない」「天気は常に雨」「景気はぼちぼち」と言えと言われる。  話し終わると、老人は先の古びた雑居ビルの横の細い路地に行けという。羽場はそこに向かう。雑居ビルの路地をすり抜けて、奥へ行くと今にも崩れそうな木造の二階建てのアパートがあった。雑種の放し飼い犬がうろうろしている。入り口に向かい、乱雑に打ち付けられた年季の入ったインターホンを押す。  すると、中から八十は過ぎているだろうと思われる腰の曲がった老婆が杖を突いて出てくる。  出迎えた老婆は、にこやかな笑みを浮かべ「おやおや文雄かい?」と言う。誰かと勘違いしているようだ。認知症なのだろうか? 
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