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ごく普通の日常会話をされる。「文雄。犬は、放れとったか?」
羽場は答える「いえ、大丈夫です」
「文雄。今日は晴れやろか?」「いえ、雨ですね」
「どうや? 文雄。景気は?」「ぼちぼちですね」
老婆は、羽場を上から下へなめるように見る。すると、さっきまでの柔和な顔がすっと真顔に替わり老婆はすっと背筋を伸ばし杖を上に向ける。ボケ老人は芝居だったようだ。
「ほな、上がっていき。二階や。一番奥やで。二階は靴のままで上がりっ」階段を杖で指し示す。
羽場は、玄関を上がり左の階段を上がる。昭和の木造住宅の線香臭い木の香りがする。
一番奥に木田と手書きの紙表札で書かれているドアがあった。
ドアをノックする。
「どうぞ」と声がして、羽場は中に入る。
部屋は八畳ほどで、木造ボロアパートには似つかわしくない、最新式パソコンや電話機や高価そうなプリンターや顕微鏡らしきものが並び、右には免許写真撮影台や奥の棚にはスマートフォンの箱が山積みされ、足元にはコード類が雑多に絡み合う光景が広がる。
ここは、飛ばしの携帯や実在名義や架空名義の銀行口座、精巧な偽造身分証明書や偽造パスポート、果ては戸籍まで買うことの出来る闇のデパートである。
小太りのランニングシャツに坊主頭の中年男は聞く。
「あんた、近江連合やってな? まあええわ。うちは、金さえ払ってくれれば詳しくは聞かん。ほんで、何が必要や?」
「飛ばしの携帯と、架空の銀行口座と免許証と戸籍が欲しいのですが」
「あんた、いくつや?」
「ちょうど四十です」
「ほう……あんたええ面構えやな。えらいやり手で出世してはる感じや。まあ、四十前後は少ないけどちゃんと在庫あるで。確か免許証と銀行口座と戸籍セットで、名前がそろっとるのがあるわ。グットタイミングやな」
「ハジキも末端組員が金に困って流しに来たりしませんか?」
「あんた、よう知っとるなぁ。もちろんや奥の小部屋にあるで? 見てくか?」
「在庫は主にどんな?」
「安モンの中華レプリカから、ドイツ軍正式採用まであるで」
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