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「今日は風が強いねぇ。冬の嵐ね」  念入りに化粧をした汐浬が、暮れかかる窓の外を見ながら、寒そうに手を合わせた。  今日はクリスマス女子会らしい。赤いワンピースに白いコートで、隙なく決めている。  女同士が集まる時の方が気を使うのだと言う。  服だけでなく、バッグやアクセサリーなど、細かいところをしっかり見られるので、気合が入るらしい。  面倒だと文句を言いながらも、楽しそうな汐里だった。  受験生にはクリスマスも年末も正月だって関係ない。  塾からも、うわっついた気持ちがペースを乱れさせるので、普通に過ごすようにとのお達しだ。  母も特別何かするつもりはないらしい。のんびりリビングでテレビを見ている。  ここのところ、洋信も仕事が忙しく、会えない日が続いている。  メールには『数日帰宅が遅くなります』という、いたって事務的な連絡があったっきりだ。 「いってくるけぇね凪斗。あったかくしときいや。シチューは弱火でしっかり温めて食べり。冷えた缶コーヒーは飲んじゃぁいけん。ホットココアにし。お風呂に入ったら、しっかり髪を乾かすんよ。わかった?」  汐里は最近、母よりもおせっかいだ。  センター試験が近づいて、汐里の方が緊張しているのか、神経質になっている。  今は、平常心が大事だと、洋信から何度も言われているので、気を使う周囲に対して、凪斗は素直に受け止めている。  内心、煩いなぁ……とは思うけど。  出かける直前に、汐里はホットレモンを作ってくれた。  酸っぱくて甘い、汐浬特製のホットレモンは、『ビタミンC♪ ビタミンC♪ 合格しぃ♪』という、呪文入りだ。  歌いながら、友達が迎えに来るのだと言って、家を出た。  母は「相変わらず過保護じゃねぇ」と笑っている。  凪斗は、熱々のマグカップを持って部屋へ戻った。  漢文に難ありと、洋信に見抜かれたので、過去問から予想問題まで手あたり次第に取り組んだ。  おかげで、弱点はほぼ克服したはずだ。  試験直前の今は、余裕を持って、問題演習をひたすら解いている。  はちみつのたっぷり入っているホットレモンを、、ふーふーと吹きながら一口飲んだ。  窓の外の景色は薄闇に染まりかけている。風と波の音が強い。今夜は荒れそうだ。
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