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28歳になる姉は、共働きで忙しい両親に代わって、凪斗の面倒をよく見ていた。
10歳も離れているので、姉弟と言うよりも母親気取りなところがある。
今も、幼い弟を見る目をして含み笑いをする。凪斗にとっては思い出してほしくない過去を回想している目だ。
オムツを替えたとか、おもらしをしたとか。いい加減話のネタにするのはやめてもらいたい。
「おれ、塾へ行く前に、タクシーから降りてくる人を見たよ。男の人じゃった」
「へ~、おじさんじゃった?」
「顔は見ちょらん。でも、門を開けて入ってった」
凪斗は受験生だ。部活も引退しているので、下校したら軽く腹ごしらえをして塾へ行く。
自転車を押して家から出たところで、タクシーが岬の家の方へ曲がったのだ。
ーーじいさんがいなくなって誰もいないのにな……。
そう思ってぼんやり見ていた。
後姿だったけど、太ってはいない。
門を開けるスーツの背中と、石畳に伸びる、長い影だけを見た。
「長男さんが何か用事があって帰ってきたんじゃろう。もしかしたらあの屋敷も処分されるかもしれんねぇ」
ゆっくりとパックをはがしながら母が言う。
東家とは、離れてはいるがお隣さんだ。付かず離れずの付き合いがあった。
凪斗はよく、回覧板を届けに行かされたものだ。
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