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雨の日や、冬の寒い日などは、遮るもののない岬への道を行くのは面倒だった。
特に夜になると、潮風や波の音が、昼間のそれとは違って心細く感じる。
あんなにポツンと、海に突き出た家で、年寄が一人で暮らすのは、寂しくはないだろうかと思ったこともある。
『東のじいさん』と、凪斗は呼んでいた。
浅からず関わりのあった家だが、じいさんが体調を崩し、長男家族の住む東京へ行ってからは顔を見ないまま。
亡くなった知らせがあったのは、葬儀の後だ。
香典とお悔やみの電報を送り、先方からお返しが届いてそれで終わり。
後は明かりの点かない家が残された。
『坊主。海風には気をつけぇよ。風向きが変わったら潮が満ちてくる。ぼやぼやしてたら波にさらわれるけぇ。遠浅を侮っちゃいけん。海はすぐに表情を変える。たいていはキバを剥くけぇな』
会えばそんなことを言うじいさんだった。
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