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「いいか、ハル。死神の役割はふたつある。
地上から魂を運ぶ事と、天国の魂を転生させることだ。」
ダルそうに話すおっさん。無表情で聞くハル。
「俺が運び屋。お前は殺し屋。
地上から天国へ来れるのは死んだ時のみ。
逆に天国から地上に転生するのも死んだ時のみ。」
ここは、天国で唯一の建物。「小屋」と言っても、見た目はボロボロの納屋で、おっさんが運び屋をする時に使う程度だ。
「だから、俺が魂を運んでお前が転生(殺)させないと、地上から生き物がいなくなっちまう。だがな……」
おっさんはバツが悪そうにチッと舌を鳴らした。ハルは髪の毛1本も動かさない。
「お前の先輩と言うか……今の死神はな。何か良くない事を思い付いた様で、まともな仕事をしなくなっちまった。」
ハルは眉ひとつ動かさない。
「だから、お前に死神の仕事を覚えてもらう。死神の能力を使える様になったら、そいつと交代でお前が死神になる。」
それから、ハルの能力を見極める為の訓練が始まった。死神には、本人の性質を反映した能力があるらしい。
おっさんの予想通り、ハルは死神としてかなり優秀だった。
沈着冷静で頭も良い。しかし、能力の見極めは困難を極めた。
道具を持たせても、体を鍛えても、能力が発動する気配は無かった。
「次は、あー銃でも試すか? 火縄銃しか無いけどな。それとも、ヌンチャクか? 日本ではそんな能力の奴居ないか?」
しかし、気性のせいか、ハルは不安だとかそういう感情を無駄だと思っているらしく、愚痴さえ言わなかった。
様々な能力を考慮し考えた末に、おっさんはある結論を出した。
「もう、これしかない。やってみろ。」
一人、拉致された死者がロープで石柱にくくりつけられている。
「や、やめろ! 何するんだ! 俺は……やり直したいんだ! 頼むよ! おねが……!」
「うるせー。黙ってろ。」
殴られて命乞いが小声になった。
「さあ、ハル。さっき俺が言った通りにやるんだ。」
ハルが死者に近づく。
「ぎゃあああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!」
それは、世にも奇妙な能力だった。
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