side : youki 飛行機から

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飛行機の窓から見下ろす青い海に小さな島々が浮かび始めると、悠生は妙に感傷的な気持ちになる。実家の扉を開けるより強く『帰ってきた』のだと思わせられる。だから地元に戻る時には必ず、海が見える側の窓際の席を選ぶ。 柔らかな光に包まれた瀬戸内の景色は心を無防備にして、遠い記憶をかき起こすだけでなく、ずっと隠し続けてきた本音を否応無しに浮き立たせる。だからこの景色を見たいと思う。だから見たくないとも思う。 ここに戻ってくる理由なんて何もないと思っていた。ここには今の自分に繋がるものがないから、過去を思い返すことしかできない。 街はのんびりとしていて、何年経っても変わることがない。少なくとも悠生の行動圏内で何かが特別に変わることはない。この街で生活をしていないんだから当然のことだ。 ただ、海を見下ろす時にだけ、懐かしさに胸が焦がれる。 あと数分で着陸態勢に入ることを機内アナウンスが伝える。
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