side : sei 再会

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「久しぶり。何?スーツなんか着てんの?」 六年三ヶ月ぶりに会った悠生は、離れていた時間を全く感じさせないほどあっさりと誠司に話しかけ、以前とどこも変わらないように見えた。背丈はあるけれど相変わらず華奢で、Tシャツにデニムというラフな格好をしている。見た目だけ言えば歳を重ねた分大人びたし、東京で暮らした分垢抜けもした。でも、纏っている空気には、ひとりだけズルをしてこそに留まっているような幼さが残っていた。何にも囚われない、変わらない自由さを持ち続けているように見えた。 「久しぶりじゃ、ねーよ、何年ぶりよ。それに、スーツなんは当たり前やろ?仕事帰りなんやから。」誠司は親しげな口調に嬉しさと懐かしさを感じながら、同じ温度で答える。「お前は普通の勤め人には見えんな。今なにしよん?」 堅い会社には勤めていないとすぐにわかるミディアムのダークブラウンの髪には、ゆるいパーマがかけられ無造作に散らされていて悠生によく似合っている。 「なんにもしてない。今、夏休みだから。」 「おいおい、ええ身分やね。とりあえずどっか適当なとこ入ろっか。」 悠生がふっと空気を抜くように笑う。 「お前と堂々と飲みに行けるなんて、なんか、いいな。」 「悠生はあの頃から普通に飲み歩いてたやん。」 「だから『お前と』やってゆうてるやん。」 言い返された言葉と、突然戻った地元の話し方にドキリとした。一気に時間が取り戻されて、あの頃の空気がふたりの間を満たしていくような錯覚。 「あ、やっと戻った、喋り方。」 「別に意識してないけど。なんか、どんな風にしゃべってたかわかんなくて。」 中学のときは仲がよかった。高校に入ると、無気力な感じに制服を着崩すのが似合っていて、派手に遊ぶタイプと一緒にいた悠生とは、出身中学が同じという以外混じるところがなかった。それでも付かず離れずといった関係で、時々視線が合い会話を交わした。その時に醸し出される親密な空気を感じていたのは、自分だけじゃないという自負が、誠司にはなぜかあった。 卒業後、悠生は東京の大学へ進学してパタリと音信不通になり、六年間一度も会うことがなかった。自分といえば地元の大学に進み就職して、この街を離れたことはない。
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