side : sei 秋の電話

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まだ十一月初めだというのに、年末の準備を始めた空気が街には漂っている。クリスマスの装飾や光が醸し出す温かさ、人々の慌ただしさにどこか気持ちが引っ張られる。賑わう夜の通りを自転車で抜けて誠司がちょうど自宅に着いた時、携帯が震えた。 「悠生と連絡とっとる?誠司、仲良かったやろ?」 最近SNSで再会した高校の同級生から着信があったかと思えば、悠生の話。 「仲良かったんはそっちやろ。夏に六年ぶりに会(お)うたけど、それから連絡ないけど?」 高瀬悠生(たかせ ゆうき)から突然連絡があり、卒業後六年ぶりに再会したのが七月の初め。二カ月後、悠生はまた東京に戻り、それきりだった。携帯のアドレス帳にある名前に触れかけ、向こうから連絡がないことを思い手を止めること数回。 「そーなんや。お前ら高校の時、仲良さそうやったけどな。」 あの頃、悠生と仲が良さそうに見えていた?自分では分からない。悠生の話を他人とする気にはなれず、もう会話を切り上げ電話を切りたくなっていた。 「今度東京で同窓会するんよ。悠生誘おうと思ったら、あいつ携番変えたみたいでさ。お前なら知っとると思ったんやけど。」 向こうから聞こえる声が遠ざかる。確かに理解できる言葉を聞いているはずなのに、意味が曖昧になって耳をすり抜けていく。 「悠生、前に海外行くかもとかゆっとったけんなー。あいつ、ほんとにどっか行ったんかな。」 どくんと心臓が鳴って、顔の血液がぱっと熱くなるのがわかる。どうしてこんな噂話で動揺してしまうのか、つくづく嫌になる。 あの日悠生は何も言わずに搭乗口の向こうに消えた。また会おうとも、もう会わないとも何も告げず。 自分は会いたいのかと問われれば答えに詰まる。ぐだぐだと思考を巡らせて、会いたいに決まっている、その結論にたどり着くのを知っている。だから考えるのを避けている。正直に言えば、もう会えないなどとは思いたくないのだ。 海外に行った?携帯が通じない? 誠司は知っている携帯番号を相手に伝えることはできなかった。それがもう通じない番号だと確かめることができなかった。 悠生とは、もう、会えないのかもしれない…。影を帯びた気持ちが胸を占めていく。
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