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「おめでとうございます。どうぞ死んでください」
中年男性の差し出した書類に、私は判を押した。
「ありがとう」
男性はテカった顔に満面の笑みのせ、私のもとを去っていった。
技術革新著しい昨今、一般に老衰以外での死因が皆無となったこの日本での私の仕事は、正規の手続きを踏んだ人に“自殺許可書”を発行することだ。
今日、許可なしでの自殺、あるいは他者に自身の殺害を求める行為の一切は、法律で認められていない。
仮に画策しても、体内に埋め込まれた脳波チップと、ドローンによる完全監視体制により、それらはほぼ100%未然に防がれる。
日本で功績を遺した有益な人間のみが、自らの命を絶つ権利を与えられるのだ。
立派に社会貢献した自殺願望者に、「死んでください」と自殺許可を下す。
頑張りをカタチにしてあげられるこの仕事に、私はいつも誇りを持って励んでいる。
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