迷い猫のビラ

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迷い猫のビラ

「あのー、すみませんが…」  店のドアが開くなり、入ってきた男が頭を下げた。手にしたビラを申し訳なさそうに差し出してくる。 「迷い猫?」  渡されたビラに印刷されていたのは、一匹の猫の姿だった。  詳しくないので種類はよく判らないが、まだ仔猫のようだ。愛らしい姿の下に、名前と、猫が行方不明になったこと、見つけた際の連絡先が記載されている。 「この間、目を離した隙に逃げ出してしまいまして。もしよかったらここのお店に、ビラを一枚貼らせて頂けませんか」 「いいですよ」  男の申し出を快諾し、私は店の壁にビラを貼った。どうせならと、もう一枚もらい、そっちは扉に貼りつける。  こんな仔猫がどこかで迷っていたら、縄張り意識の強い野良猫や烏に苛められかねないし、人に保護されたとしても、こんなにかわいかったら、 そのまま飼ってしまうこともある。  ビラを貼って、この猫が迷い猫だと告知しておけば、無事に飼い主の元へ戻れる確率が高くなるだろう。  ウチは物凄い繁盛店ではないけれど、常連さんも多くいるし、それなり客足のある店だ。壁と扉にビラを貼っておけば、目撃情報なども入りやすいだろう。  頭を下げる男に、早く見つかるといいねと声をかけ、私はさらなるビラまきに行く相手を送り出した。  それから数日。
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