能力屋さん

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「はぁ…」 やってしまった。最悪だ。 俺は深いため息を吐き、ゆっくりと歩く。気持ちが下向きなせいか、顔も下を向いてしまっている。 俺はもうすぐ三十路を迎える独身男、美人でもなんでもない彼女持ちの平会社員、いや、平会社員だった。 何故過去形なのかは察してくれるとありがたいが、説明しておこう。 俺が働いていた会社に重要取引先の社長さんがお訪れて、普段お客様にお茶を出す女性社員が外回りの最中だったせいで、俺がお茶を出すことになったんだ。 それが、何もかもの不幸の始まり。 熱々のお茶を入れ、社長さんの元へ運ぶ途中に何もない床で躓いてお茶を乗せたお盆を投げ飛ばし、熱々のお茶が社長さんにかかった。 慌てて謝りながら顔や服にかかったお茶を拭き取っている最中、社長さんの髪の毛が俺の袖に引っかかって外れた。 何が外れたのかって?桂だよ桂。ヅラが外れたのさ。 ヅラの下はお坊さんもびっくりなツルツルだったさ。 そのせいで社長さんは激怒。取引も中止。うちの社長が激怒俺はクビって流れさ。 …全く。これくらい察してくれ。一々状況説明する俺の身にもなってくれ。涙が止まらないじゃないか。
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