なんでも

僕は俯いた少女の横顔を見つめる。
暗く光を失った瞳。

無理もない。
少女の妹は重病なのだから。
容態の急変を繰り返し、残された時間はあと僅かだと言われている。

少女の両親は治療費を稼ぐために日夜忙しく、今日は病院まで、親戚の僕が送り届けることになったのだ。

送り届けたところで、少女と僕には見守ることしかできないが。

何か声をかけなくてはと、焦る。

「い…妹さんの移植手術、早く提供者が見つかるといいですね…。
僕が協力できることがあればなんでも…」

自分でも気休めの言葉だとわかってる。

だけど少女は、僕の言葉にパッと顔をあげ、笑顔を向けた。

「死んでください。
脳だけでいいですから」

親戚だから適合する確率が高いのではと、少女は僕の脳を、まるでいらなくなった玩具の電池を抜く瞬間のような…そんな冷めきった瞳で見据え、髪を両手で鷲掴んできた。

僕は少女の心情を甘く見すぎた。