6ノ前、傷の女と狩人たち

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「わざわざすみません、こんなところまで来てもらって」 俺はそう言って、呼び出した人物に礼をする。すると相手はいえいえと言い笑うと、 「全然大丈夫ですよ。私、ネタのためならどんな所でも向かいますから!」 えっへんと胸を張る女性。その子供っぽい自慢の仕方に俺は思わず笑みを浮かべ、この女性に良い印象を抱いた。大丈夫、この人は信用できる。 彼女は日比野夏実という。東京にある出版社幻妖社の記者で、怪奇現象実録といういわゆるオカルト事件などを載せた雑誌の担当記者なのだそうだ。俺は読んだことは無かったが、寛が時々買っていたのは覚えている。 てっきり記者というので男性の、ちょっと地味めな人が来ると想像していたが予想を裏切られた。可憐な女性で服装もカジュアル、さらに性格も明るくとても話しやすそうだ。 (ま、話す内容はそれと真逆の、かなり暗い話題だがな) 先日、俺たちが遭遇した窃盗事件とその犯人が狙撃され死亡したという一件。警視庁内でもこの話題はタブーとされており、詳しい情報はほとんど手に入れられなくなっている。さらにある刑事が言うことにはどうも公安部がこの件で動いているらしく、下手に関わるとクビを切られるかもしれないらしい。 一方、俺たち事件に関わっていた人間にも事件については話さないように、と釘を刺されている。また現場を見ていた人間やメディアには”凶悪犯を射殺した”といって、それ以上の情報を一切開示しなかった。普通ならマスコミも真相を掴もうと躍起になるだろうが、今回は違った。 静岡における妖怪たちの反乱、いわゆる”憎炎魔の乱”と仮称されるそれのせいだ。 「いやぁ、大変ですよ。世間じゃ妖怪は実在していたって大騒ぎで、学者さんはテレビや新聞やらに引っ張りだこで。今まで信じてなかった人たちもこれは本当だと信じるしかないし、政府も今までの妖怪に関する情報を続々と開示していますし」 早口でそう言う夏実に俺は黙って聞く。どうやら仕事は忙しいみたいだが、どうも楽しんでやっている節がある。まあ無理もないかもしれないが。 「……で、そういう夏実さんはかなり前からそういう存在の取材をしていて、今回のもいち早く情報を手に入れたと」 「はい、というよりそういう情報を仕入れる独自のパイプがありまして。警察の”特犯係”とか”とある探偵さん”とかね」
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