誰も知らない肖像画

2/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 その静粛な空間で、私は魔王のことを考えていた。  私をこの世界に召喚した人。いや、人ではなく魔族らしいけれど、そんなことは私にはどうでもいい。現代の平凡な女子大学生である私が、未だにこの城に軟禁されてそばに置かれているこの状況こそなんとかしたい問題だった。  異世界の扉を開いた時に、目の前にいたのはこの魔王だ。それから興奮した様子で「我がお前を召喚したのだ!」「どうだ、異世界の空気は? なかなかいいだろう」等々、散々自分勝手に色々まくし立てられた。 しかし、こちらとしては突然飛ばされて意味不明な環境に置かれ、目の前に現れたのはこの世界を支配している魔王だと告げられて、異世界の空気を楽しむどころではなかった。 むしろ少しパニックになってしまって、しばらくは茫然自失と無駄に日々を過ごしてしまったのだから、魔王には謝罪の一言くらい要求したかった。  ただ、彼には私を安全な場所に置いてくれているという一応の恩がある。別に魔王にどう思われようと知ったことではないが、生活をさせてもらっている以上、あまり強く出られないのも現状だ。 言いたいことはハッキリ言うようにはしているけれど。  それでも、なぜそばに置くのか。以前、聞いてみたことがあった。  結果、「寂しいからに決まっているだろう!」という、なんとも弱気な解答が返ってきたわけだが。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!