誰も知らない肖像画

3/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 この魔王は態度は尊大だが、意外とこう、ヘタレた魔王である。  外出する時も私と一緒じゃないと襲われるのが怖くて出歩けないし、小さい頃は幼なじみである勇者に散々いじわるをされていて、現在もそのことがトラウマで逃げ回っているし、果てはゴキブリが出たくらいで私を呼びつける。  なぜこの男が魔王なのか甚だ疑問すぎる。 そのくせ国ひとつをぶっ放せるくらいの力を持っているらしいから、この世の中の仕組みとやらがわからなくなるのも当然だと思いたい。  今は自分の肖像画を描いてもらえることにウキウキとしているのが丸わかりで、微笑むというよりニヤニヤと笑うその不気味な顔に寒気がする。  せっかくの美形がもったいないと思ってしまう部分があるのも私にわずかに残された女心ではあるけれど、いくら見目麗しくても魔王に恋をするかといえば……私のような人間はノーだと即答する。 仮にもし恋に落ちたとしても、生きる年数が違うのにどうやって幸せになるのか――。  そんなことを考えていたら下書きを終えた絵描きがぐっと伸びをして、私は我に返った。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!