誰も知らない肖像画

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 私は今日、魔王から「見届け役」という謎の大役を仰せつかってここにいるわけだが、ただ見ているだけというのも退屈なので色々と考えてしまう。  気分転換に自分で淹れたマカナ茶――この国ではこのお茶が一番高級らしい――の味を楽しむ。ほんのりとシナモンのような香りがして、心が落ち着いていく。  そうしている間にも絵描きは油絵具を取り出し、せっせと筆を滑らせた。 「いやー魔王さんの髪の毛も角もツヤツヤしていて、素晴らしいですねー! 描きがいがあるなあ」 「ふふん、そうだろうそうだろう。我の髪はこの国最高峰の特注シャンプーとトリートメントで洗っているからな!」  どうやらこの絵描きはおしゃべり好きらしく、絵具を足しながら魔王を褒めちぎっている。最高の絵を描くために気分をよくさせようとおべっかを使っているのだろうか。  しかし、それすらも素直に受け取るのがこの魔王である。素直というか、ただのバカだと私は思っている。
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