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「おお、お前もくるか。いいぞいいぞ。やはりここは妻であるお前が一緒にいるのがふさわしい」
「妻……」
出た。この人の謎の勘違い。
召喚されたのが女の私だったからなのか、好みだったのかわからないが、最近になってやたらと「妻」呼びをする。こちらはえらい迷惑である。
そもそも恋人でもないのに、なぜいきなり妻なのか。私の恋愛観は現代女子として一般的であるけれども、この世界では通用しないのかも知れない。
けれど、「はい、妻です」と答えるのもさすがに抵抗がある。
「私、妻になった覚えないけど」
「なっ……! お前はまだそのようなことを。いいからこちらへ来るのだ!」
「いやよ、死にたくない」
かなりの距離を空けて攻防を繰り返す私たちを、絵描きが不思議そうな顔で見つめている。見つめていないでなんとか止めてほしい。
「なぜお前はそんなにつれないのだ……」
やたらと冷たく当たる私に魔王は弱い。眉根を情けなく下げ、端正な顔を歪めて今にも泣きそうだ。
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