誰も知らない肖像画

6/8

9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「おお、お前もくるか。いいぞいいぞ。やはりここは妻であるお前が一緒にいるのがふさわしい」 「妻……」  出た。この人の謎の勘違い。  召喚されたのが女の私だったからなのか、好みだったのかわからないが、最近になってやたらと「妻」呼びをする。こちらはえらい迷惑である。  そもそも恋人でもないのに、なぜいきなり妻なのか。私の恋愛観は現代女子として一般的であるけれども、この世界では通用しないのかも知れない。  けれど、「はい、妻です」と答えるのもさすがに抵抗がある。 「私、妻になった覚えないけど」 「なっ……! お前はまだそのようなことを。いいからこちらへ来るのだ!」 「いやよ、死にたくない」  かなりの距離を空けて攻防を繰り返す私たちを、絵描きが不思議そうな顔で見つめている。見つめていないでなんとか止めてほしい。 「なぜお前はそんなにつれないのだ……」  やたらと冷たく当たる私に魔王は弱い。眉根を情けなく下げ、端正な顔を歪めて今にも泣きそうだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加