誰も知らない肖像画

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 しかし、私にも選択権くらいあると信じたい。そりゃあこの城にお世話になってはいるけれど、こちらにとっては不可抗力であり、魔王は責任を取る立場なのだ。  一人の若い女性である私の、これから先の長い人生をめちゃくちゃにしたのだから。 「……わかった。一緒に描かれるのは諦めよう。ただし、今日の夕飯はハンバーグを作れ! それなら妥協してやってもいい」 「はあ……」  代わりがハンバーグでいいのかという疑問はあるが、それで手を打ってもらえるのならありがたい。私は一応頷いた。 「じ、じゃあ、続けましょう、魔王さん!」  絵描きが恐る恐るといった感じで魔王にそう言葉を向けると、彼は再び椅子に深く腰掛けて、何事もなかったかのようにポーズをキメた。  それから数日。こうして私たちの小さな攻防の末に出来上がった肖像画は、魔王城の客間に飾られることになった。  果たして魔王城に客が来て、その絵を誰かが見ることになるのかはわからないが、魔王は完成品とハンバーグで満足したようである。
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