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「当たり。リーラは、俺の店だよ」
パティシエになる為に製菓の専門学校に通っていた蒼紫が、たった2ヶ月で海外に修業に旅立ってしまって以来の、ここでの再会。ちょっと考えればピンとくる。
もう疑問は解消された。潰れちゃった私をお客だから泊めてくれただけ。たぶん、あの子は親切で。蒼紫は迷惑だったろう。
だって私は蒼紫に酷いことをした。
それにしても、桜!
何で、いつもみたいに連れて帰ってくれなかったの? 今から問い詰めに行ってやる!
「ごほごほっ! ご馳走様。さよなら!」
「え、紫陽花ちゃん?」
残った果汁を痛み止めと一緒に一気飲みして盛大にむせながら、空になったグラスを置いて立ち上がる。もう1秒でも早く帰りたい。
「待って。いきなり立ち上がったら危ない」
「触らないで!」
腕に触れた手を払う。
「嫌だ。帰さないよ、まだ」
「ちょ、放して!」
後ろから肩越しに抱きしめられて、その声の近さに、鼓動が有り得ない程に大きく跳ねる。
「まだ俺の話を聞いてくれてない」
話? あの子の? 嫌よ、そんなの聞かない!
「蒼紫、離れて!」
「無理。昨夜、俺にしがみついて離れなかったの、紫陽花ちゃんのくせに。何言ってんの?」
「は? そんなこと……」
「本当なのに。桜さんだって言ってたよ。紫陽花ちゃん、飲んで潰れたら必ず『ソーシ』って連呼するって」
何ソレ、そんなの初耳。てか、何でソレを蒼紫に言う!
「昨夜だって、閉店まで飲んで寝ちゃった紫陽花ちゃんに声をかけたら、いきなり抱きつかれたんだよ? 全然離れてくれないから、桜さんが俺に預けるって帰ったんだ」
桜ぁ! 相手の迷惑も考えなさいよっ!
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