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菓子パンと後輩の彼
江藤が祖父から譲り受けた喫茶店の開店時刻は朝の10時から。だがそれよりも前、7時30分頃にやってくる一人の客の姿があった。
以前務めていた会社の後輩で大池という男だ。180センチを超える江藤よりも少しだけ背が高く整った顔をしており、眼鏡をかけている。
だが残念なことにあまり表情が変わらない為、冷たい印象を与える。
朝食を済ませ、珈琲を飲みながらスマートフォンでニュースを読む。それは毎朝の日課なのだが、いつも眉間にしわが寄っている。その理由を知っている江藤は笑みを浮かべて焼きたてのパンを差し出した。
メイプルシュガーブレット。
今日のセットメニューで出すつもりでいる品で、スマートフォンの画面を見つめていた目が匂いにつられてそちらへと移る。
「これは?」
「メイプルシュガーブレットだよ」
バターを生地に埋め込んだ後にメイプルシュガーとグラニュー糖を合わせたものをふりかけて焼いたものだ。
焼きたてのメイプルシュガーブレットからは甘い香りがして、それを口にした大池の表情が緩んだ。
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