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佐野アキは自分の所有する探偵事務所で真剣な表情をしていた。誰かと話していたのか電話の受話器を置きながら、溜息を吐く。
程なくして女性の依頼人が、涙ながら事務所の入口からノックもせずに入ってきた。よくある光景だとアキは思いながらも、真摯な姿勢で依頼人の女性を迎え入れる。ソファと椅子などの簡素な事務所の中で、泣く依頼人を宥めながらソファに座らせる。彼女と依頼人はソファに座りながらテーブルを囲った。
依頼人が泣き止むのを待ってから依頼内容を聞こうとアキは考える。ソファにもたれながらアキは、装飾品に身を包んだ依頼人を観察する。華美な服装にアキは嫌な気持ちになる。洋服なんて着れればいいだろう。ブランド物なんて値段が高いだけじゃん。そう思いながら、目の前で泣いている人を彼女は高校の制服姿で表面上は心配そうにしていた。
何故、アキが学校の制服姿なのかというと、高校が終わり探偵としての活動をする洋服は持っているものの、今日は時間がなかった。依頼人は鈴木ユリと名乗る。彼女は泣き声に鼻を詰まらせたまま話そうとしていた。「落ち着くまで待ってますよ」と、言うとまた泣きはじめる。
アキの依頼は特殊で絶対条件が3つあった。
1つは彼女の事を絶対に信じること。
2つ目には何があっても、気にしないこと。
そして最後は料金の全額先払いで、返金は一切受け付けないことだ。
この三つの条件を予め了承する人以外の依頼は絶対に受けない。彼女は常日頃からそう決めている。特に三番目の条件は貯金を趣味にしているアキにとって絶対だ。少しでも渋るようであれば、彼女の冷徹な部分を見ることになる。幸い、今までに、それが原因で問題になったことはない。
当然、目の前で子供のように泣いているユリも同様だ。彼女はここに来る前にメールで同じ条件を突き付けてある。恐らくユリは藁を掴む思いで、こんな探偵事務所に依頼したのだろう。
返金不可。そして、探偵を絶対に信用しろなどというのは、よほどの人でなければ来ない。彼女の不思議な能力があるのが少しずつ噂になって、一部では都市伝説となっているのが原因なのだろう。
アキの耳にもその噂は入っている。依頼内容は依頼者側から口外無用とは言っていない。まぁ、その噂が宣伝になりお金が増えるからいいけど。それが彼女の考えだ。
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