花輪

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花輪

 会社帰りも道中、オープンしたばかりの店を見つけた。  看板や店の造りから、イタリアン系の店らしい。開店の祝いで、店先に贈り主の名前が書かれた花輪がいくつも置かれている。  その内の一つが目に止まり、俺は足を止めた。  仰々しくはあるが、やけに地味な色合いの花輪が一つ混ざっている。  これって、祝い事じゃなく、葬式の時に飾る花だよな?  俺もそこまで詳しくはないけれど、こいつはどう見ても葬式用の花輪だ。  開店祝いに何でそんな物があるのだろう。まさか、誰かの嫌がらせとか?  色んな疑問が脳に溢れる。でも、花輪のとある部分が目に入り、俺は湧いた疑問を鎮めた。  花の下に書かれている贈り主の名前。それが、この地味な花輪にはなかったのだ。  開店祝いに、葬式用の花を無記名で。さすがにそんな嫌がらせ注文を受ける業者はいないだろう。ということは、多分、業者の手違い搬入だ。  たまたま、花輪の中に葬式用が紛れ込み、気づくことなくうっかり飾ってしまった。  正直、それもどうかとは思うけれど、嫌がらせ発注に応じたと考えるよりはありえる話だ。  自分の中にそう結論を出し、俺は店の前を離れた。  それからほんの数日後。  開店したばかりのその店は閉店を余儀なくされた。  理由は、店主が事故で亡くなったから。  店の扉に貼られた告知内容に残念さが込み上げる。  よさそうな店だったから、一度入ってみたかったのに。  そんなことをぼんやり思いながら立ち去りかけた時だった。  店のガラス窓に何かが映り込んでいるのが見えた。  振り向いても何もないが、ガラスを見ると、そこにだけ存在している映像がある。  数日前にここで見かけたのと同じ、巨大で仰々しいが地味な色合いの花輪。葬式用のあの花輪。店の前には何もないのに、それはくっきりと窓ガラスの中にだけ映り込んでいる。  そして今日はあの日と違い、中央に贈り主の名前が見えた。
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