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午後三時になり少し憂い気な表情をした佐藤ミクがいる。
彼女はショートカットに、女子高の制服を着ていた。華奢に伸びた手足を綺麗にして座っている。一見すると名家のお嬢様のような雰囲気だが、首元のチョーカーが否定するように主張していた。ホテルの1階にある中世的な喫茶店のラウンジで紅茶を啜る。彼女は栃木から大学受験をしに、東京に昨夜から宿泊していた。入試が終わり一息吐いたのだが、今朝起った惨事を、思い出し鬱屈とした表情をしている。
佐藤が受験のために学校へ出かけようとした時、彼女の泊まる部屋の廊下である10階の廊下を走っていた。エレベーターのある場所に到着する手前で、急に現れた男女のカップルとぶつかったのだ。男性はきにしていなかったが、女性は因縁をつけて佐藤の肩を掴んだ。痛みと衝撃よりも佐藤は、女性が自分に触れたという行動に腹を立て、女性の髪を掴んで引き離した。
「あなた達など死んだらいい」
佐藤の目からは、本気で女性を殺さんばかりの目で女性を見た。その時の佐藤は咄嗟の殺意をむき出しにして表情を歪めていた。彼女の強い殺意に女性は逃げるように離れる。男性は苦笑いをして女性に近づいて宥めていた。彼女はエレベーターが閉まりそうになるのを確認して、遅刻しないようにかなりの広さがあるエレベーターへ逃げ込んだのだ。
その記憶を思い出すだけでイライラとした気持ちが胸に浮かぶ。彼女は整った顔を怒りで歪めながら、残った紅茶を飲みこんだ。今は誰とも話したくない。そんな心情など知らない、と言わんばかりに紺色の制服を着た男性に名前を呼ばれた。
「もしかして、佐藤ミクさんですか?」
そう呼ばれて、彼女はムッとした表情のままで、放っておいてくれない。と言たげに男性を睨む。口を付けたカップをテーブルに置くと、改めて男性の姿を見た。どうやら警察官のようだ。朴訥そうな顔立ちに、背は高く、目つきだけが鋭い。彼を見ながら佐藤は、この男性とどこかで会ったか思い出そうとした。しかし、記憶力に自信がある彼女の記憶にその片鱗すら男性の顔は引っかからない。誰だっただろう。
「どちら様でしょうか。確かに私は佐藤ミクですけど」
「すみません。私はこの辺りを管轄している日野と言います。探偵の佐藤さんですよね、噂は聞いています」
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