第17話

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息子が帰ってからも進藤の様子は変わらなかった。いつもの進藤なら、客が帰れば直ぐに書斎に戻るだろうに、その日は独り取り残されたかのようにぽつりと応接間で過ごし、夕食の時間になるまで動こうとしなかった。 何があったんですか、と、喉元まで出かけた声はついに出ず、聞きそびれるうちにいつもの生活へと戻っていったのだが、佐々木 まり子が今日訪れた理由は、どうにもあの時と関係がある気がして仕方ない。 ――鯉に餌をやろうかしら。 1時間ほど前に餌を与えたばかりなので、それほど欲しがるとは思えないが、息が詰まるので屋敷の外に出たかった。 郁子とて、何もかも気付かぬほど馬鹿ではない。 学歴の話になれば、自慢できるものなど何もないが、先立った亭主が必死で隠そうとしていたものを探りだす勘の良さくらいはあった。
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