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今にして思えば、亭主が隠していたものなんて、内緒で買った高価な釣竿だとか、ゴルフクラブだとか、幼稚なほどどうでもよいことだ。
郁子も当時はそれを見つける度に角をたてたが、進藤が心の内に抱えているものなどと比べれば……。
思い出して身震いした。
関わってはいけないのだ。
何も知らずに生きていくほうが、よっぽど幸せだ。
悠然と泳いでいる鯉をぼんやりと見つめていると、玄関から佐々木 まり子が出てきた。
「お帰りですか?」
目が合ってしまったので、とりあえずそう口にした。
「はい。失礼しました」
佐々木 まり子の声には、進藤に追い返されて渋々帰る、という雰囲気はなかった。
丁重に礼をして去った彼女の背には、目標を達成したかのような満ち足りた気配があった。
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