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「お帰りになられましたよ」
声をかけようか、どうしようか迷ったが、郁子は思いきって口を開いた。
進藤はソファーに深く腰掛け、テーブルを見つめていた。フルマラソンを終えた後のように、疲労している感じが伝わってきた。
この様子なら、おそらく佐々木 まり子が部屋を出ていくときも見送ったりはせず、座り続けたままだったろう。
「お茶を淹れなおしましょうか?」
郁子は、先ほど出したお茶に口がつけられていないのを見て、それを片付けるついでに声をかけた。
答えは戻ってこないだろうと思っていたし、確かにその答えは戻ってこなかったのだが、テーブルに手を伸ばしたとき、不意に「郁子さん」と進藤が呟いた。
まるで、人形が突然喋ったかのような驚きがあった。
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