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――あの人との思い出は……。
昨日から、いくら考えても思い出せない。
二人で笑ったこと、二人で苦しんだこと、些細なことでも何かはある筈なのに、まるで佐々木だけの記憶がすっぽりと抜け落ちてしまったかのように、何ひとつ思い出せないのだ。
心が苦しかった。
もしかしたら、このまま思い出せないままになってしまわないかと思うと、怖くて仕方なかった。
何時間そこに立っていたのか。
車へと戻ったのは、携帯電話が神崎からの着信を知らせてからだった。
「え? 進藤 アサ子が妊娠検査で陽性反応?」
まり子は、停車した車内から窓外に目のやり場を求めた。
向かいに見える児童養護施設は、進藤 アサ子の娘――検事総長の孫が預けられている施設だ。
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