好きって言ってよ(前編)

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あいつらが来るのはもう少し先だよ、とだけ言われて、わたしはもうそれ以上聞かなかった。彼らにはなんの問題もないけど、やっぱり生前のことを思い出すことになるし。 今は何も考えたくない。もう少し、もっと落ち着いたら、きっと整理できるようになる。自分の気持ちも。 それまではただ、こうして先輩との時間に浸っていたい。 実際のところ、浸っているというよりは、溺れているといった方が正しいかもしれない。先輩は飽かずわたしを離さなかった。何度目かにわたしを抱いたあと、済まなさそうにわたしを抱きしめて言った。 「…ごめんな、何度も。引くだろ」 わたしは首を思いきり横に振ってから先輩に顔を寄せ、唇にそっとキスした。 「ううん。全然」 むしろどちらかと言うと、これだけ先輩が何度も激しく抱いてくれているのに、まだ飽き足りないように感じてる自分の身体の方が余程怖い。 霊は生きてる人間みたいな体力的限界がないので、かなり際限なくできるのもやばい。きりがない。と思っていたが、あまりに強い快感が続くのも案外精神的に保たないものだということが程なくわかった。もう無理、というほどお互いを貪り合ったあとはわたしたちは芯からぐったりして、重なり合うように深く眠った。 やや落ち着いてくると、とりとめもなくぽつぽつと話をした。先輩の膝の上にわたしが座って、あるいは先輩がわたしの膝枕で。横たわった先輩の胸の上に頭を載せて。とにかく常に何処かしらお互い触れ合っていたかった。 この部屋で固く抱き合ってから離ればなれになったあとは、わたしがそのまま転生してしまいついに会う機会はなかった。夢の中で三回、会えただけだ。なずなの一生分数十年会えないままだったのだから、もう離れたくない気持ちが強かった。少なくともわたしは。でも、先輩も長いことわたしを片時も離そうとしなかった。 時間の感覚がどんどんなくなっていく。ていうか、ここは普通の空間じゃない。無時間の中にいるようなものだ。 元わたしが使っていた踊り場スペースに先輩が改めて張った強力なシールドの中で、わたしたちは飽くことなく交わったり、どうでもいいような話をしたり泥のように眠ったりした。まるで世界には二人しか存在しないみたいに。 「どうした」 気がつくとぼんやりと考えごとをしていたらしい。座り込んでいたわたしを背後からそっと腕を回して先輩が抱きしめ、尋ねる。
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