好きって言ってよ(前編)

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「…あ、やっ」 思わず声が出る。身を捩りながら頭の中を整理しようと必死になるが、最早あまり冷静にはなれそうもない。先輩の手が既に下の服を脱がせ始めている。大丈夫、わたし? …先輩、わたしとするの? ここまで来といて本当に阿呆みたいなんだけど、どういうわけかわたしは先輩とのこういう状況について、ほんの毛先ほども想像してこなかった。先輩とセックス?ないないない。あり得ないよそんなの。だって、あたしのこと女と思ってないかもしれないじゃん。自惚れるのも大概にしなよ。 思い上がりを自戒するあまり、ちょっとでもその手のことを想起するとそのような突っ込みが入る特殊体質に改変されていた。故に、全く心構えが出来ていない。 …そりゃあ、先輩がわたしのことを嫌いじゃないことはわかってる。大切に、特別に扱ってくれた…と、思う。でも、それって保護者としてだけの感情かもしれないよね?そこら辺、はっきりするまではそのままにしておこう。 と、保留にし続けてきたそのツケが今。まぁ何度かキスはしてるんだけど。保護者って被保護者にキスってするもんだっけ?頭ぐるぐる。 「あぁっ、ん、…いやぁっ」 思わず全身がびくんと反応する。先輩の指がわたしの脚の間をなぞるように愛撫し始めた。…ああ、もう、こんなの。 自分の激しい反応に引きそうになる。思わず反射的に脚を閉じそうになり、必死にこらえた。勿論、全然嫌じゃない。むしろ…、してほしい。でもそれより何より、先輩がわたしとする気があるんなら、わたしは受ける一択である。他の選択肢なんかない! ああ、でも、これってもしかしたら、先輩の仕事だったらどうしよう。いや変な意味じゃなく。 てか変な意味でか。えーと、つまり、ついさっきまでなずななのかアキなのか自分でも判然としなかった自我が、この事態の衝撃で、驚くほど一瞬のうちにアキに統一されたわけで。 先輩がここで待っていたのは、わたしとの約束も勿論だけど、恐らく後輩の霊であるわたしが混乱したままここへ来るのを、なるべくスムーズに本来のアキに戻すサポートの意味もあるに違いない。そう考えると、これって激烈な効果がある。そしてそれが主たる目的でこれを始めたんなら、既に達成されている。 そうしたら先輩は、これを止めちゃうのか…?仕事でしてるんなら、きっとそうなるよね。 ああ、でも、ここで止められたら。すごいつらい。
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